現代短歌社

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現代短歌社の主催事業のご報告。

パネルディスカッション

那覇市で「短歌のつどい」を開催

現代短歌社は短歌のつどい「辺野古、表現の多様性を求めて」を開催し、パネリストを含め県内外から65名が参加しました。

日時
2019年6月22日(土)13:30-17:00
場所
那覇市IT創造館(那覇市)
プログラム
講演(1)「沖縄の短歌についての断章いくつか」黒瀬珂瀾
講演(2)「ファインダーから見る辺野古・沖縄」山本英夫(写真家)
パネルディスカッション
「辺野古、表現の多様性を求めて」
安里琉太 黒瀬珂瀾 浜崎結花 古堅喜代子 吉川宏志(司会)

短歌のつどいに参加して
伊波瞳

 

6月22日、現代短歌社主催の短歌のつどい「辺野古、表現の多様性を求めて」が那覇市IT創造館で開催された。県内から57名の参加者があり、県外からも川野里子、加藤英彦、前田康子氏らが参加した。
黒瀬珂瀾氏による講演「沖縄の短歌についての断章いくつか」で、近現代の沖縄の短歌には、日常生活より基地や戦争という大きなテーマが先にあり、歌があとからついていくという話を聞きながら、短歌のつどいの案内文を思いだした。
文中には「わが国では福島もまた放射能災害という人災に苦しんでいますが、原発というテーマが塚本邦雄、岡井隆ら前衛短歌以降の高度な表現技術をくぐり抜けたゆえか、柔軟かつ多様な短歌表現がなされているようです」とある。
1972年の復帰まで米軍政府統治下にあった沖縄では、中央歌壇の動向を知り高度な表現技術を学ぶことは困難だったはずだ。テーマが先にあり、歌があとからついていくというのは、表現の遅れか、それとも特徴なのか。この疑問は私の課題にしようと思った。
続いて名護市在住の写真家・山本英夫氏が辺野古の新基地建設を巡る現状を、自作の資料や写真で伝えた。
パネルディスカッション「辺野古、表現の多様性を求めて」では、安里琉太、黒瀬珂瀾、浜﨑結花、古堅喜代子、吉川宏志(司会)の五氏が登壇した。
古堅氏は沖縄の社会詠について「わかってもらいたい気持ちがはやり、抗議調で直情的になってしまうことは否めない」が、「多様な表現を試み、他所の人にも理解してもらえる方法を獲得したい」と述べた。
浜﨑氏は19歳。テーマも大切だが、日常を詠むことで歌の表現を大切にしたいと語った。
平成生まれの俳人、安里氏は「沖縄の戦後の俳句」の動向について説明した。「沖縄忌」という季語が詠まれてきた沖縄の俳句から、東日本大震災の被災者との連帯の可能性を示唆した。
黒瀬氏は「沖縄を離れたひとの歌について」というテーマで話した。沖縄の思いを背負ったままでアイデンティティを隠している歌もあり、島からの離脱願望があるという指摘に胸が疼いた。
吉川氏は基地や差別を詠んだ作品を採り上げ、直截な表現よりも心に響く作品を紹介した。
・基地あるがゆえの   夜の雨のけぶれる中をネオン艶めく
①犯罪 ②繁栄                                      屋良健一郎
設問形式の掲出歌については、古堅、浜﨑、吉川の三氏が採り上げ、アプローチへの多様性を評価していた。
確かに沖縄には矛盾や二面性の問題がある。そこを突いた二者択一の設問形式は労作だと思うし、作者の苦しい状況も理解できる。が、意思決定する作者の姿が見えないまま、読者に手渡されている点には疑問が残る。  
・次々と仲間に鞄持たされて途方に暮るる生徒 沖縄         佐藤モニカ
浜﨑氏は、いじめを苦にして自殺する人もいる。当事者にしか分からない痛みは、沖縄の現状に通じると強調した。この作品については、昨年のシンポジウムでも意見が分かれ、加藤英彦氏が「現代短歌新聞」8月号で「構図の単純化が分かりやすさと引き換えに複雑な現実を掬いきれていないことも確かであり、その意味でもこうした論議の深まりは歓迎されてよい」とまとめていた。
・大切じゃないわけじゃない 埋め立ての日取りの決まりゆく珊瑚礁   浜﨑結花
二重否定はストレーに言えないからか。何故言えないのかという問いもあったが、明確な答えは出なかった。そこに沖縄の現実があり、辺野古を詠うむずかしさがあると思うので、慎重に見ていきたいと思った。辺野古をどう表現するかについては、正直なところ、まだ迷っている。

現代短歌社新聞 2018年8月号より一部改変

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