現代短歌社

キマイラ文語

川本千栄

キマイラ文語

明治の和歌革新運動によって短歌は文語/口語のキマイラとなった。その100年後、SNSの普及が短歌の口語化に第二のパラダイムシフトをもたらした。言葉は変化し続け、今日の口語は、明日には古びた文語となる宿命にある。著者は本書を通じて、こう提言する――。

もうやめませんか? 「文語/口語」の線引き


Ⅰ キマイラ文語
  キマイラ文語/ぬえとキマイラ/現代短歌の文語のルーツ/
  和歌と狂歌が並立した近世/香川景樹が「旧派」となるまで
Ⅱ 近代文語の賞味期限
  増殖する擬古語/ら抜き言葉と創作文語/短歌の歴史は口語化の歴史/
  『広辞苑』第三版とやさしい日本語/SNSと第二の言文一致/
  短歌口語化の伏流水~古語を使う人々/時は流れ「た」/繋がないままの歌
Ⅲ ニューウェーブ世代の検証
  ニューウェーブ終焉時を振り返る/俵万智の教師詠/加藤治郎のオノマトペ/
 荻原裕幸の語彙/水原紫苑の「われ」/穂村弘の評論/座談会(2001.10.)/
 ニューウェーブをあるべき場所に

  • 定価:1,650円(税込)
  • 判型:新書判ソフトカバー
  • 頁数:214頁
  • ISBN:978-4-86534-391-5
  • 発刊日:2022年9月5日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院

購入はこちら ご注文はメールまたはお電話でも承ります。
info@gendaitankasha.com


※ご注文いただく時点で品切の場合もありますので、ご了承ください。

BR書評 Book Review

批判と執着と分析と 荻原裕幸

 川本千栄が本書『キマイラ文語』で見せているのは、歌論的な要素がかなり強めの短歌史だと思われる。まとめられる前に読んでいた文章もかなりある。しかし、一冊の本にとって、それぞれがこれほど明確な役割を有するパートになるとは予測できなかった。荻原裕幸の作風が分析かつ批判されている箇所もあるので、悔しかったりもするのだけど、この本は実に面白い。諸氏に一読することを勧めたい。
 現代短歌における文語とは何だろうか、という素朴な疑問から本書ははじめられる。文語と言っても、歴史的なことばと現在のことばとでキマイラ的に生成されたものなのだと認識して、近世から現在までの歴史の検証をはじめる。一冊のタイトルにもなった「キマイラ文語」また「短歌の歴史は口語化の歴史」などといった、章毎のタイトルからも見える通り、何となくそう感じなくもないけどそこまで言っていいのか? と感じる領域にしっかり踏みこんで見識を示してゆく。
 川本の筆致は、もちろん個人的で個性的なものだけれど、私は、読み進めながら、これは、菱川善夫だ! と思った。謙虚に短歌の歴史につながり、それでもどこか強引に、すべてを俯瞰するように、短歌の動きを断言的に語る。この筆致を実現できていたのは、菱川善夫であり、特に本書の後半でニューウェーブを語る川本の筆致は、是非が反転しているにもかかわらず、前衛短歌を熱く語ってきた菱川を彷彿とさせた。
 大袈裟な、と思われた人には、本書と菱川善夫の名著『歌のありか』との読み比べをお勧めしておきたい。短歌史が、単なる是非の判断などではなく、執着して分析する病のような情熱だと納得できるのではないか。


(現代短歌新聞2022年11月号掲載)

続きを読む

他の書評をみる

TOPページに戻る

トップに戻る