現代短歌社

蓮池譜

西藤定

蓮池譜

gift10叢書第39篇

第8回現代短歌社賞受賞

〈「栞」より〉
先行きの不透明な時代の中で、作者はこれからどう生きていくのか。
そして、作者の持つ知はどこへと向かうのか。(松村正直)

どきどきするこの気分はたまらない。定型が出来事を見事なまでに心地よく
招いているから読者のわたしも便乗できる。(谷川由里子)

洒脱に遊んでみせながら、あくまでも従順で、真面目。いな、その遊戯性さえ
真面目さのうちだ。(川野芽生)

  • 沈丁花 架空の文字を考えてそれが漢字に似てしまうまで
  • 橄欖油ためらいがちに鍋へ落ちキリエ雨より海は生まれき
  • 首都高の高さの窓で息をつくあいつはだめですと俺も言う
  • 定価:2,750円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:198頁
  • ISBN:978-4-86534-380-9
  • 初版:2021年9月28日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第39篇)

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BR書評 Book Review

予定調和を躱す 染野太朗


・腹筋のひとつうしろの壁で吹くトロンボーンは平らかな湖
 主体はトロンボーン奏者であるらしい。奏者ならではの体感が上の句に現れる。ただ「平らかな湖」は妙に唐突な喩ではないか。そういうタイトルの楽曲があるのか。音色の喩としては豊かにイメージを喚起するのだが、上の句の体感とは断絶がある。いや、体感と言っても、そもそも「ひとつうしろの」というのは知的処理がやや目立つ感受であり、言葉や韻律によって直接体感を刺激するタイプの措辞ではない。
・スプーンが反るにまかせてひかるから、夏いちご火の味と思いぬ
・ウズベクのぶどうと水をけなしつつ友のひづめのような歯ならび
 これらの歌の「火の味」「ひづめのような歯ならび」にも「平らかな湖」と似た印象を受ける。どこか過剰のような、脈絡がないような。
・せきれいの尾のしずけさに五線紙へ定規を当てるきみの右手は
・平鍋に油の泡ははじけたり島産むごとく鰈を据ゑぬ
・体温になった楽器が冷えていく長い休符が平日だろう
 といった詩性の構成のわかりやすい歌もこの歌集には含まれる(この「せきれい」や「島産む」や「平日」もややふしぎな存在感だが)。ただ先に挙げたような、詩性や論理が予定調和に向かってしまうのを既の所で躱すタイプの歌も少なくなく、それが本歌集の魅力の一つになっているのは確かだと思う。知的処理の度合いの高さや詩が見出されるまでの思考の長さがその根本にあろうか。
・首都高の高さの窓で息をつくあいつはだめですと俺も言う
 傲慢と自省を同時に含むこの歌のニュアンスもそういった魅力の延長にあるように思う。

(現代短歌新聞2021年12月号掲載)

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