現代短歌社

おもあい

中村ヨリ子

おもあい

会津を離れて夫の郷里の沖縄に移り住み、茶道教室を開く義母のもとで辛酸を嘗めた著者。やがて赦しへと至る心の軌跡が胸を打つ第一歌集。
栞=松村正直/恒成美代子/米川千嘉子。

  • 内地なら雪の点前にもてなすを花点前する沖縄二月
  • きょう床に据えたき花の一輪が有刺鉄線の向こうに咲けり
  • 弟子たちの帰りしあとに夫と喫む薄茶たっぷりおもあいとせん
  • 定価:2,750円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:194頁
  • ISBN:978-4-86534-371-7
  • 初版:2021年9月28日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院

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BR書評 Book Review

平穏を淹れるまで 伊勢方信


 福島県に生まれ東京で結婚、長女の出産後、夫の実家の都合で沖縄に移り住み、戦争で部下を死なせた呵責を拭いきれない義父と、性【さが】狷介な義母の、性情の違いからくる、相剋の間隙で詠み続けた歌には、作者の苦悩や憤り、悲しみなどが織り込まれており、世代の違いによる現実の受け止め方を考えさせられる。
・価値観を違えるままの同居にて連立政権のごとき危うさ
・怒鳴り合う舅姑【ちちはは】まえにさり気なき子の挨拶は救いのごとし
 直喩「連立政権のごとき」が極めて効果的に働いている一首目の、いつ崩れるか予測できない家庭への不安を、二首目の子の言動が救っている。
・基地内に有刺鉄線【フェンス】隔ててジョギングの若きとわれとどちらが檻か
・兵たりし父の望みで共に来つ南部戦跡、平和の礎
・再来を約して海と海軍壕案内せずに父を帰しぬ
 沖縄に移り住んだのは、本土復帰の翌年一九七三年と「あとがき」に記している。当然のことながら、戦時下の沖縄が被った悲惨な実状や、返還後も、全国の米軍基地の約七〇パーセントが沖縄にある事実などは知らなかったと思われる。一首目はその後の感懐。二首目と三首目には、父親への思いやりが滲んでいる。
・ひとしずくもう一滴落ち行くを見届けてから釜蓋閉めん
 茶道師範の義母に習うことなく、稽古の準備や片付けなどの諸々をする中で学んだ茶道を、義母亡き今の平穏の中で、自分が継いでいることに、感謝の思いを抱く作者。
 歌集名の「おもあい」は、一碗の薄茶を、二、三人で分け合って喫むことと「あとがき」に知る。
 忍従の末に得た、日常と共に淹れるお茶は格別であろう。

(現代短歌新聞2021年12月号掲載)

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