現代短歌社

髙橋則子

窓

gift10叢書第36篇

うたとは何か–––。
みずからにそう問わない日はなかった。
十二年の沈黙と試行の後、静かにみのった果実。

第五歌集

  • 来て動くこの単純を見むと寄る窓ちかぢかと地面に雀
  • 今日の心興こりて今日のわれ在りとつぶやくやうに言ひし人はも
  • かすかなる風ともなひてかたはらの椅子に座りぬ待ちつつゐれば
  • やうやくに咳をさまりてふるさとの友の葡萄は咽喉【のみど】すべりゆく
  • つねの日の常の窓の外あをあをと今日の曇りを蔦の葉動く
  • 定価:3,080円(税込)
  • 判型:四六判
  • 頁数:210頁
  • ISBN:978-4-86534-345-8
  • 初版:2021年1月30日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第36篇)

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BR書評 Book Review

叙景の構造 花山多佳子

 前の歌集より十二年を経て出版された第五歌集である。ほとんどが叙景歌という今どきは珍しい一冊なのだが、一首一首の完成度を愉しんで読むことができる。

・上りゆく丘陵坂の見とほしを起伏もつ路は曇りにつづく

 冒頭のうた。広い空間把握の確かさが「上りゆく」で静止的にならない。「曇りにつづく」は佐藤佐太郎の「しろじろと虎杖【いたどり】の咲く崖【がけ】が見え幸【さいはひ】のなき曇につづく」をすぐ思い出すが「起伏もつ路は」の存在感はまた独特だ。

・ひろげたるつばさの内らほの白く下り来るなり春のくもりを

 つばさの持ち主は明示されない。「ひろげたる」「ほの白く下り来る」という動きだけがある。これは後のほうのうた、

・建物のひまを飛ぶもの舗装路の曇りに今し下りて歩む

 とも共通する。「飛ぶもの」という抽象化がなされる。「曇り」は歌集に多く、また「下り」といった下降の動きがきわめて多い。

・花白くしきりに壁【かべ】面をくだりくる明け方の夢おもひつつゐし

 と夢の中でも「くだりくる」。現実と夢の照合がふしぎな魅力になっていて、この夢の「壁面」に私は惹かれる。「窓」も多いが「壁」という語彙も多く、領域を明示する。そうした語彙には意識的な選択が感じられ、見出す現実空間の限定とパラレルに作品世界が擦りだされている。下る、垂る、落ちる、散る、降る、なべて下降が構造の摂理
だとすれば、それに抗する生の動きは強まる。

・庭の羊歯芽は伸びたちて平らなる古葉の上にひらかむとすも
・蔦の葉の青みづみづと大楠を捲き上ぐるあふぎ小路に入りぬ

 動詞のベクトル、その交差に助詞が緻密に作用している見事な構成の一冊である。


(現代短歌新聞2021年4月号掲載)

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