現代短歌社

崖にて

北山あさひ

崖にて

2刷

gift10叢書第35篇

第7回(平成31年度)現代短歌社賞
第27回(令和3年度)日本歌人クラブ新人賞
第65回(令和3年度)現代歌人協会賞

韻律に対する天性の優れた耳がある。巻頭からテンポよく畳みかけて来る
リズミカルな歌群。しかし、歌の世界は決して軽くはない。なにげない歌にも、
生きがたい日本の現在を生きる、重たく、せつない手ごたえや嘆息がこもる。
同時に、トホホ感にあふれた人間観察や明晰な智慧が天窓となり、鮮やかに
照らし出す歌人の心の深み。読ませる新人が登場した。
島田修三(帯文より)

  • いちめんのたんぽぽ畑に呆けていたい結婚を一人でしたい
  • 星ひとつぶ口内炎のように燃ゆ〈生きづらさ〉などふつうのテーマ
  • がんばったところで誰も見ていない日本の北で窓開けている
  • 定価:2,200円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:230頁
  • ISBN:978-4-86534-346-5
  • 初版:2020年11月6日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第35篇)

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BR書評 Book Review

大隊長を待ちながら 鯨井可菜子

・夏雲のあわいをユー・エフ・オーは行くきらめいて行く母離婚せり

 親の離婚を題材とした一首。荒唐無稽な「ユー・エフ・オー」に託したのは、戸籍や家に翻弄される馬鹿馬鹿しさだ。

・「おうち」には「居場所」があるか 鳴きやまぬWAONの森を抜けて帰らな

 決済音が犬の鳴き声である電子マネー・WAONは、巣ごもり消費の舞台となるスーパーを示す。コロナ禍で喧伝された「おうち」という言葉。優しい響きだが、誰にとっても「おうち」に「居場所」があるとは限らない。

・アイドルが〈謝罪〉しているこの夜をフュリオサ大隊長どこにいる
・セクハラはなかったことにできないよ。ようこそシベリアからの白鳥

 この二首では、アイドルが恋愛を禁じられ、セクハラが「なかったこと」にされる社会に目を向けている。フュリオサ大隊長とは、映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(二〇一五)に登場する女性キャラクターで、独裁者からその妻たちを解放するべく行動する。このひと月の間にも、五輪組織委トップの女性蔑視発言があり、アイドルが〈謝罪〉してグループを辞めた。この国にフュリオサ大隊長が現れる気配はまだないが、北山はたった一人でも世の不条理に立ち向かうだろう。

・北にすむひとよ南にすむひとよ空を見上げるだけで手紙だ
・ともだちが短歌をばかにしないことうれしくてジン・ジン・ジンギスカン

 傷つく者への連帯意識の根底には、純粋な他者への愛がある。だから、北山の歌は人の心を掴むのだ。


(現代短歌新聞2021年3月号掲載)

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