現代短歌社

シンギングサンド

仲間節子

シンギングサンド

gift10叢書第32篇

沖縄は仲間さんの産土である。(略)作者の沖縄への愛とその生は、つねに思いにたがう条件の中で葛藤しつつ歌へと昇華してゆく。その葛藤こそ信頼できる作者の歌の本質であろう。 馬場あき子 帯文より

  • パスポート携え渡りし日本国琉球処分の一世紀のち
  • バナナの実日毎を庭に太りゆき百本の福いただく卯月
  • 鳴き砂も埋め立てられて一切の泡瀬干潟の声の止むとき
  • 定価:2,750円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:228頁
  • ISBN:978-4-86534-320-5
  • 初版:2020年9月20日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第32篇)

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BR書評 Book Review

鳴き砂の声を聞く 伊勢方信

 沖縄の歴史を背負って現在を詠んだ歌には、ときとして主観が先行し、尖鋭的な作品を見ることもあるが、仲間節子さんは、冷静で、かつ客観的に沖縄の現実を見据えて、抑制の効いた主張をしている。
 国内で唯一の悲惨な地上戦が行われた沖縄だが、『語りつぐ沖縄戦 珊瑚の島燃えて』(沖縄県教材教具研究会)によれば、作者の育った宮古島では地上戦はなかったものの、制海・制空権をアメリカ軍に握られ、島民と守備隊九万人が飢えに苦しんだとある。
・パスポート携え渡りし日本国琉球処分の一世紀のち
 敗戦の五年後に生まれた著者が知り得た宮古島の惨状を、心の襞に染み込ませたまま、大学に学ぶため上京したのは一九七二年五月十五日の沖縄全域祖国復帰(施政権返還)以前のことであり、沖縄出発時の印象を、一八七九年に明治政府が、琉球藩を有無を言わせず沖縄県とした、琉球処分と重ねた抄出の一首が訴えるところは強い。
・「反戦歌」「沖縄を返せ」をうたいつつ心と身体が分離してゆく
・デモ終えてきしむ身体は門限を過ぎて語れり深夜喫茶に
 東京では一九六八年から激化した日大闘争や東大闘争、さらに翌年は、国・公・私立合わせて五十四校にも及んだという大学紛争の余塵が燻っていた。一首目に流れる学問への希求と、行動への衝動に揺れる不安定な自己への自覚、二首目の若者特有の正義感と軽い達成感は、同じ時代を生きた世代の共感を呼ぶ歌。
・鳴き砂も埋め立てられて一切の泡瀬干潟の声の止むとき
 多くの人の願いがとどくことのない現実、鳴き砂に託された悲壮感は、巨大で冷徹な権力に真向かう、沖縄の人々の心を映す。

(現代短歌新聞2020年11月号掲載)

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