現代短歌社

醜の夏草

大山敏夫

醜の夏草

gift10叢書第31篇

歌集名「醜の夏草」には、簡単に言えば「草魂で頑張るぞ」というような思いを籠めてある。「草魂」とは、わたしの若い頃に活躍していたプロ野球の鈴木啓示投手の言葉で、(略)「投げたらあかん」と鈴木投手の声が今も聞こえる。「あとがき」より

  • ねぢくれて固まる瘤のごときもの揉み解しほぐしやや希望あり
  • ふりまはす手のなかにたまたま入りたる感じなれども小蠅をつぶす
  • 排気ガスあびて泥など乾びたる茎葉ふとぶと醜の夏草
  • 定価:2,970円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:214頁
  • ISBN:978-4-86534-342-7
  • 初版:2020年9月4日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第31篇)

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BR書評 Book Review

風通しの良さ 今井恵子

 歌集を読んで最後に「あとがき」を読むと、「おもいがけず新歌集を作ることになり、ざっくりと二〇一四年から二〇一九年までの作品を対象にした」とある。「おもいがけず」「ざっくり」に目が留まる。これは場当たり的なのではなく、作者の生活思想であると納得する。その思想は次のように詠まれているものだ。
・自然体のきほはぬ歌を作り続け迷ひなきさまに逝きたまひたり
・草や木のおもひのままにつちかへよ縛つたり伐つたりせぬが善からむ
 前の歌は追悼歌。作者の短歌観がうかがえる。自然体で何物にも束縛されず、しかも迷いのない歌をよしとする。後の歌は、植物の扱いについて。手を加えずに草や木が本来の持ち味を自在に伸ばす姿を「善」とする。
・青野菜ざつくと刻む一人分聞ゆるは夜に入りて降る雨
・咲きはじめたちまち花の数をます梅は幹さへはなやぎてゆく
・大公孫樹仰ぐめぐりに音一つまたひとつ落ちて銀杏が鳴る
 『醜の夏草』には植物の歌が多いが、それは細密画を描くときのような視線で捉えられてはおらず、「おもいがけず」「ざっくり」という趣だ。青野菜や梅花や公孫樹は、作者に詠まれて気持ちよさそうに呼吸しているではないか。見慣れた情景だが作者と植物がこのように共に在る歌は決して多くないように思う。視線が対象を縛らない。風通しがよい。
・PM2・5の濃くきらふなか自動車がつぎつぎマスクの人もつぎつぎ
・喰ひ足りて戻る椅子にてまた観入るこの油絵の透明の水
 前の歌の「つぎつぎ」、後の歌の「喰ひ足りて」は、そうした自在への信条の現れと読んだ。

(現代短歌新聞2020年11月号掲載)

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