現代短歌社

黄昏

三枝浩樹

黄昏

gift10叢書第30篇

虚無と祈りの間で、揺れ続けた、あの頃。
時をかけておぼえたのは、かなしみや痛みに馴れること、かもしれない。
黄昏の、明るいしずけさのなかに歩み出す、第七歌集。

  • こころの襤褸【らんる】繕うための閑ありてかたえのひとと二人過ごせる
  • 好きな時間はcrepuscule【クレプスキュール】 そうだった昔はきみのかたわらにいた
  • もうすこし行く行けるところまで フルートのひかりの中にピアノ鳴りいづ
  • 定価:2,860円(税込)
  • 判型:四六判ソフトカバー
  • 頁数:290ページ
  • ISBN: 978-4-86534-333-5
  • 初版:2020年7月30日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第30篇)

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BR書評 Book Review

命の感慨と祈り 東直子

 冒頭の「青空――十二歳のきみに」という一連は、作者が長年日曜学校で教えている少年に向けて詠まれている。
・〈だから〉と〈だけど〉寄せては返り水の辺のはだしのきみを波ひたしゆく
 深刻な病で母親が入院中であるという少年の心に寄りそい、静かに励ますやさしい歌である。
 続いて、二〇一三年に亡くなった高橋たか子に寄せた連作がある。
・想起説のてのひらそっと開かれて〈未知〉をつつめる〈既知〉という闇
 この歌には、「作家としてキリスト者として遺した多くの霊的著述。その知のまばたきを想う」と詞書があり、高橋たか子の著作の内容に、同じくキリスト教者である作者が大きな影響を受けていたことが分かる。
・しけもくを取りて吸わんとしたる人 差し出す学生に礼して受けぬ
 この歌は、たか子の夫の高橋和巳を詠んだものである。早稲田祭の講演後の懇親会に、作者も参加していたのだ。高橋和巳の人となりが、ありありと浮かぶ。
 さらに、雨宮雅子、立原道造、幼なじみの「原くん」、吉本隆明など、作者の思い入れのある物故者へ、様々な角度から追悼歌を寄せている。表題歌は、立原道造への呼びかけの歌、「好きな時間はcrépusucule そうだった昔はきみのかたわらにいた」である。
 「老い」というタイトルの連作があり、自分と同じ時代を生きてきた人との命と老いの感慨をやわらかく歌い上げている。前述の追悼歌と響きあい、胸を突かれる。
 又、歴史の中で迫害されたキリシタンを詠んだ作品群もあり、歌集を貫くキリスト者としての想いと文学的追悼の念は、同一線上にあるのだと確信できる。
 透明な祈りに満ちた、あたたかな歌集である。


(現代短歌新聞2020年10月号掲載)

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