現代短歌社

メビウスの地平

永田和宏

メビウスの地平

改訂第2版

小出版社からのアングラ的な歌集出版は、歌集の出自としては不利だったのだろうが、ある意味、凝りに凝った、若さの自負と気負いの詰まった第一歌集を眺めるとき、これはこれでなかなかいい出発をしたと思っているのである。(永田和宏 文庫版へのあとがき)

文庫版解説=吉川宏志
第二版解説=三上春海

  • きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり
  • ひとひらのレモンをきみは とおい昼の花火のようにまわしていたが
  • 背を抱けば四肢かろうじて耐えているなだれおつるを紅葉と呼べり
  • 定価:880円(税込)
  • 判型:文庫判
  • 頁数:130頁
  • ISBN:978-4-86534-269-7
  • 初版:2020年1月25日
  • 発行:現代短歌社

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BR書評 Book Review

新しい感触 遠藤由季

 手に入りにくい「第一歌集」を文庫として比較的気軽に手に取れることは実にありがたい。多くの歌人の記憶に刻まれているであろう代表歌を、作者が束ねた作品群の一首として改めて読むことができるからだ。
 短歌を始めてすぐの頃に永田の初期代表歌に出会ったのは自然の成り行きだった。総合誌等でよく取り上げられるそれらの歌が持つ熱量や、詩であろうとする意気込みに触れ、詩としての短歌の眩しさを眺める思いでいた。あれから幾十年か経て改めてそれらの歌を味わおうとすると、古書独特の香りの中で鑑賞しているような不思議な感覚を持った。それは懐かしさというよりも、それらの歌と鑑賞者である私との間に生まれた新しい感触のようなものだ。
 本書では三上春海が「文庫第二版解説」を書いている。その中の一節に「〈歌人・永田和宏〉という具体性・パブリックイメージが完成しきる以前に詠われていた、(中略)何者でもないからこそ詠むことのできる一瞬のきらめきが本書『メビウスの地平』にはあふれている。」とある。これは私が得た新しい感触のヒントとなりそうだ。
 永田の初期代表歌を今さら引用する必要はないだろう。今読む『メビウスの地平』において、特に惹かれた歌を二首あげる。
・乳房まで闇となりつつねむりいんれんげ野に母を残し来たりき
・灯を避けて密殺のごと抱きしかば背後の闇ににおうくちなし
 「母」の存在が翳りのように横たわり、相聞の背後には闇を背負う。そのほの暗さは地下を流れる水脈のようだ。その薄暗い水脈は、現在平明な言葉で詠う永田作品にも間違いなく流れ込んでいる。それを改めて教えてくれるのが第二版のこの一冊だ。

(現代短歌新聞2020年4月号掲載)

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