現代短歌社

海、または迷路

小田鮎子

海、または迷路

gift10叢書第25篇

鮎子さんの歌には、「わが子だけ」、自分だけといった発想が根本にない。社会批評というような鋭い角度をもつものではなく、ごく自然にそれがないのだ。いつも相対化することのできるまなざしをもっている。 阿木津英

  • 春キャベツ手で裂きながら毎日を壊してみたき欲望生まる
  • 園庭にわが子を探すわが子だけ探せば迷う深き迷路に
  • 妻という椅子に深深と腰掛けて飲み干している食前酒【アペリティフ】かな
  • 定価:2,750円(税込)
  • 判型:四六判
  • 頁数:190頁
  • ISBN:978-4-86534-308-3
  • 初版:2019年12月3日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第25篇)

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BR書評 Book Review

違和への気づき 富田睦子

 作者は天草市出身、二〇〇八年、出産の里帰り中に熊本県民文芸賞を受賞、選考委員の石田比呂志と出会い、「牙」に入会。二〇一一年短歌現代新人賞を受賞、現在は「八雁」に所属している。
 歌集前半は東京に暮らし、「母・妻としての自分」の感じる違和感をヒリヒリと掬う。
・「お母さん」と私を初めて呼ぶ人の交付する母子健康手帳
 自治体から母子手帳をもらう場面だ。突然氏名ではなく「お母さん」と呼ばれた驚きの瞬間。
・飲み終えて乳首を舌に押し出せる子が薄目あけわれと目の合う
 乳児が満腹になり「乳首を舌に押し出」してくる。描写がリアルだ。母と子の蜜月であり、目が合うことは愛着を生む大切な行為なのに、なぜかすうっと寒い。
・パソコンのなかなれば夜に盛り上がる子ども不在の子育て広場
 育児サイトだろう。「子育て」広場なのに子どもの寝た深夜に大人だけが集まる奇妙さに気づいてしまった。
・妻という椅子に深深と腰掛けて飲み干している食前酒かな
 長期不在の夫を持つ妻の集い。離れて暮らし妻らしいことはしていないのに、それが「優雅な奥様」の空間を可能にしている皮肉。
 一方、九州への転居を含む後半は、気づきは他者、社会へ向けられ深化していく。
・人並みの暮らしというを再現しおままごとセット売られておりぬ
・蟬声も皆一斉に途絶えたか原子爆弾落ちたるのちは
 「人並み」という不確かな尺度が、しかし当たり前のように浸透している怖さ。今いる現実と過去をつなぐ蟬声。
 次第に骨が太くなっていく。歌とともに生きる人の第一歌集である。

(現代短歌新聞2020年3月号掲載)

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