現代短歌社

花折断層

近藤かすみ

花折断層

gift10叢書第23篇

令和2年度日本歌人クラブ近畿ブロック優良歌集

日本文化のもっとも洗練されたエッセンス、京都。作者はそこに生まれ、そこに住む。どれほど華やいだみやこにあっても、住み暮らす人のおりふしの生活はただ淡々と、平凡に過ぎてゆく。作者はその歴史の栄光と、平凡な暮らしのはざまにあって、歌を詠むことでみずからを支える。
小池 光

  • むかしより加茂大橋のほとりには廃園ありてひぐらしが啼く
  • きなり色の高野豆腐に湯をそそぐ花の絵のある魔法瓶より
  • 素晴らしき人生などと言うてみる言うてみるしかなき夏木立
  • 定価:2,750円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:220頁
  • ISBN:978-4-86534-264-2
  • 初版:2019年9月26日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第23篇)

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BR書評 Book Review

バスに乗る人 松村正直

 よくバスに乗る人だと思う。バスの車窓から見た風景やバス停を詠んだ歌が多い。
・山肌に法の字ひとつ彫らるるを窓より眺む帰りのバスに
・実相院行きのバスにて三人の女はしやべる喪の服のまま
・バスに乗り百万遍に来てみればあはれパチンコ〈モナコ〉はあらず
 「法の字」は五山の送り火の一つ。山肌のそこだけ常に草木が刈られている。二首目は葬式帰りの女性たちだろう。「女三人寄れば姦しい」というひと昔前のことわざそのままの光景だ。三首目は見慣れたパチンコ店がいつの間にか潰れていたことに驚いている。
 五山の送り火や「実相院」「百万遍」といった地名に、作者の暮らす京都の町の姿が垣間見える。バスで移動するのにちょうど良いくらいの大きさの町だ。
・いつか死ぬ話などする姉をらず妹をらず鈴虫のこゑ
・電球の切れたときだけ足が乗るあなたの座つてゐた白い椅子
・あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く
 作者はひとり暮らしをしているらしい。父母は既に亡く、夫は「シアトルに単身赴任」、子どもたちはもう独立している。でもそれを特に寂しがっているわけでもない。一人でいるのは気楽で、鮭缶ひとつで夕食を済ませることもできる。時おり弱気にもなるけれど、誰にも縛られず自分の生き方を貫く作者。他者に対する適度な距離感が、この歌集を風通しの良いものにしている。
・まちがつて乗つてしまつたバスの窓五月の風はほほを撫でゆく
 行先の違うバスに乗っても慌てることはない。どこへ行っても同じ京都の中だ。間違いを楽しむかのように、作者は悠々と風に吹かれている。

(現代短歌新聞2019年12月号掲載)

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