現代短歌社

うたで描くエポック 大正行進曲

福島泰樹

うたで描くエポック 大正行進曲

gift10叢書第14篇

大正時代を生きた人々に抉るような傷を与えた大逆事件。時代が再びきな臭さを増す今日、福島泰樹の眼の前に、死者がよみがえり、踊りながら歩き出した。ひらめくナイフの光のように危険な第三十一歌集。

  • 「十二人とも殺されたね」うん、深川行きの小窓に映る淺草の灯よ
  • どこを刺しても滲み出る血は大杉の臭いしかないアナーキストの
  • 電線に引っかかってた黒い布、弔旗となりて春来【きた】るべし
  • 定価:3,300円(税込)
  • 判型:A5判ハードカバー
  • 頁数:250頁
  • ISBN:978-4-86534-244-4
  • 初版:2018年11月30日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第14篇)

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BR書評 Book Review

群像歌劇と肉親の記憶 田中綾

 大正期は、平成の半分以下の十四年数カ月という短い期間しかない。けれども、世界大戦や社会主義革命、労働者の連帯など、世界同時代的に大きく揺れ動いた年代であった。
 その大正期を象徴する、大杉栄、伊藤野枝、有島武郎、「ギロチン社」のメンバー、夭折の画家村山槐多ら、志もて疾駆した人々を織り込んだ群像歌劇は、福島泰樹の得意とするところだろう。他方、二○一一年刊行の第二十六歌集『血と雨の歌』以降、「大正」という時代に福島自身の内的なモチーフが反映されている点にも着目したい。それは、家族・肉親の記憶の追体験である。
 たとえば、大正十二年の関東大震災を体験し、戦時下に男児福島泰樹を産み、二十六歳の若さで亡くなった実母。大正を生きた人々は、福島の精神の造型者でもあり、福島が大正を歌うことは、肉親への追慕にもなっているのである。
 それゆえに、大震災時の戒厳令司令官福田雅太郎への報復を試みた「ギロチン社」を歌うにも、かれらの家族も鳥瞰した連作構成となっている。
・極東虛無黨總裁中濱鐵デアル名刺差出シ重ネコシ掠奪【リヤク】
・母が居て妹が居て俺が居た頭蓋の底を陽は昇りゆく
 中浜哲(鉄)らギロチン社の行動は、戒厳令下に虐殺された大杉栄追悼という動機こそ濃厚だ。だが、中浜の大杉追悼詩「『杉よ!/眼の男よ!』と/俺は今、骸骨の前に起つて呼びかける」の表層性よりも、本歌集は、かれらの肉親や背景を詠み込むことでより深く時代に錨を下している。
 肉親の記憶の追体験を含有したことで、南米ガルシア・マルケスの小説のように、死者と生者が同じ時空で語り合う魔術的リアリズムの世界も味わえる。第三十一歌集。

(現代短歌新聞2019年3月号掲載)

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