現代短歌社

インターンシップ記

Intern Story

こんにちは。田部と申します。

2021年11月から2024年3月まで、およそ2年半のあいだ現代短歌社でインターンシップをしていました。春から就職先が決まり、今年度でインターン期間が終了となるので、節目としてその業務内容を記録しようと思います。

「短歌専門の出版社って何をするの?」「編集の仕事について知りたい!」という方は、よろしければぜひご一読ください。猫の手くらいの助けになるかもしれません。

現代短歌社とは


現代短歌社(以下、本社)は、2012年3月に設立した短歌専門の出版社です。

新聞・雑誌・歌集・歌書等の出版を行っています。現在は京都市中京区六角町に位置し、併設する「泥書房」は猫のひたいくらいの小さなお店ですが、短歌の蔵書がとても充実しています。

私は普段、大学で日本美術史を学んでいました。そこで絵画と詩の関係に興味を持ち、短歌関係の書店を探していたところに泥書房と出会いました。
その後に運良くインターンシップの募集を知り、短歌と編集の仕事に興味があったため本社に応募するに至りました。

主な業務内容


私が本社で経験した主な業務内容は、以下の通りです。いずれも補助的な仕事のため、これが出版社の業務全てというわけではありません。一つずつ簡単に説明していきます。

〈編集作業〉
1)新聞雑誌の校正
2)原稿の入力
3)書影の撮影編集

〈その他〉
4)蔵書の整理
5)書籍発送の準備
6)接客や電話対応
7)イベント補助

 

〈編集作業〉

1)新聞雑誌の校正

校正とは、文章の内容や誤植、体裁、色彩などを修正する作業です。本社では「現代短歌新聞」を毎月、雑誌「現代短歌」を隔月で刊行しているため、月末前には紙面の校正をはじめます。業務の中で最もよくした作業です。

実際の作業では、デザイン会社が文章をレイアウト(組版)したデータを印刷し、複数人で目を通して内容に問題がないかチェックします。修正があれば赤ペンで指示を入れ、再びデザイン会社へ紙面データを戻し、修正していただきます。
修正指示には校正記号を用います。これは校正時の指示を簡略に表記するための記号で、日本産業規格が定めたものが基準となっています。慣れないと使いづらいかもしれませんが、私は作業をしながら少しずつ頻出する記号を覚えて働いていました。

注意した点は、本文はもちろん短歌を特に慎重に確認することです。引用された歌の場合は原本を探し、歌に誤りがないか一字一句を確かめます。また、口語ではなく文語を用いた歌の場合は、仮名遣いや漢字の表記が特殊なため注意します。いずれも細かな作業ですが、おのずと正しい日本語の文法や、難読漢字を学ぶことができるのが良い点でした。

身につくスキル → #校正力 #文法力 #語彙力

 

2)原稿の入力

本社が刊行する新聞や雑誌、歌集や歌書などの原稿の入力作業です。

実際の作業は、送られる原稿データによって変わります。
原稿がデジタルデータの場合は、デザイン会社に送る前にレイアウトしやすいように、ふりがなの指示を入れるなどの体裁を整えます。
原稿が紙の場合は、Wordで全文を文字起こしします。時折とても達筆な手書き原稿が送られてきて、読むのに一苦労することもありました。

基本は単純作業ですが、これもなるべく誤字脱字がないよう神経を尖らせます。上記と同様、短歌には特に注意しました。三十一文字の中に作者のこだわりが詰まっているため、句読点や「てにをは」の誤りで全く異なる作品になってしまうことを常に念頭に置いていました。
また、原稿によっては膨大な量の文字数を入力することもあります。完成までひたすら文字を打ち込むため忍耐力が必要ですが、写経のように長時間集中する作業が好きという方は楽しめるかもしれません。

身につくスキル → #Wordスキル #解読力 #語彙力

 

3)書影の撮影編集

新聞や雑誌に掲載する書影(本の表紙のビジュアル)を撮影もしくはスキャンし、画像編集する作業です。新書紹介の欄では書影が本の「顔」となるため、意外と大切な作業です。

実際の作業では、カメラで撮影もしくは印刷機でスキャンした画像を、Photoshopで編集します。実際に見た印象と変わらないように、画像の解像度、彩度、明度などを調整します。
私は大学でPhotoshopの基本操作を習っていため操作することができました。もしデザイン系アプリを使ったことがないという方は、本やWebサイトの説明を参考にしておくと、徐々に使いこなせるようになると思います。

注意したのは、特殊な装幀の画像編集をする場合です。例えば、タイトル文字を銀箔で押したのみのシンプルな装幀は、見る角度によって銀箔が白飛びしてしまうため、良い塩梅に視認性が保つように編集します。
また、本の色味が表紙カバーから透けて見えるような装幀も、なるべく実際に見た表紙の色の印象から外れないように調整します。
これも細かな作業ですが、装幀家の仕事をじっくり観察して、その工夫を発見する時間はとても有意義で、私にとっては猫にまたたびのような楽しい作業でした。

身につくスキル →#Photoshopスキル #観察力

線画 が含まれている画像

自動的に生成された説明

〈その他〉

4)蔵書の整理

本社には他の出版社や個人から歌集や歌書が毎日届きます。また、「結社」と総称される全国各地にある短歌の創作グループから、毎月「結社誌」という作品・評論集が送られてきます。それらの書籍データをExcelで入力管理し、本棚に収納していく作業です。
編集部に身を置くことで、新刊情報や結社の動静をいち早く入手できることは大きな利点です。猫の目のように変化する短歌界のニュースは、個人の力だけでは中々追いつけないので、情報源としてとても助かりました。

身につくスキル → #Excelスキル

 

5)書籍発送の準備

刊行された書籍は、全国の出版社や書店や図書館、個人のお客様の手元へと届けられます。運送業者にお渡しする前に、書籍を発送できる状態に仕上げる作業です。
何百冊分の書籍に謹呈紙を挟み、発送用シールを貼ったビニール袋に送付状を添えて包装していきます。ひたすら手を動かすので、たまに職場の方と話をして、気分転換しながら作業をしていました。

身につくスキル → #手先の器用さ

 

6)接客や電話対応

編集作業の合間に、泥書房の書籍販売の接客や電話対応をすることもあります。泥書房では、図書スペースでコーヒーを飲みながら読書ができるサービスを提供しています。その応対などで、お客様にお店や短歌について軽くお話をすることもありました。

身につくスキル → #接客力

 

7)イベント補助

泥書房は定期的にイベントを開催しています。歌会や書籍発売記念の講演会や展示会、他所の会場で開催している文芸イベントに参加することもありました。その際は準備や受付、荷物の運搬などをしていました。私はちゃっかり歌会に参加したり、イベントに同行して講演会を聴いたりしていました。

身につくスキル → #コミュニケーション力?

 

インターンシップを通して


以上が、私が行っていた主な業務内容です。

結果として、私にとって本社はとても働きやすい職場でした。
私は手先が不器用かつマイペースなのですが、文章の校正や文字入力は(どちらかと言うと)スピードより正確さの方が大切なので、自分の性に合っていたのだろうと思います。やりやすい仕事を回していただいていたことも理由の一つですが、細かなことをコツコツと続ける作業は好きなので、日常から離れて集中できる作業があることに逆に助けられていた気がします。

また、仕事をする上で校正力は格段に上がりました。と書くと、現在執筆している文章に対しても一抹の緊張が走るのですが、正確な日本語の文法や文字への意識は、以前よりも高くなったと思います。短歌という作品自体がそういった面を持ち合わせているので、現代短歌社だからこそ得られた力と言って良いかもしれません。

本社のインターンは、編集の仕事の流れを知り、短歌の作品や評論に触れながら、編集スキルを身につけたいという方におすすめします。
また、積極的に人と交流してイベントを企画したいという方にも働きがいがある職場だと思います。短歌界隈は小さなコミュニティですが、京都の中心にある泥書房には、実力ある歌人や短歌結社の方々がたくさん往来しているので、何かのきっかけがあるかもしれません。


さて、ここまで読んでくださった読者の皆さまはお気づきかもしれませんが、本社は猫好きが多く、私もその一人です。また、コーヒー党も多いです。
本社では保護猫団体を支援したり、泥書房でコーヒー専門店とコラボしてタイの少数民族が栽培したコーヒー豆を販売したりしています。そのため、猫とコーヒーが好きな方にとってはとても居心地の良い場所です。

実際のお仕事とは全く関係はありませんが、もし猫もコーヒーも得意でないという方なら、猫をかぶってお仕事する方がいいかもしれません。

最後に、あらためまして読者の皆さまと、現代短歌社で一緒に働いてくださった皆さまに感謝申し上げます。ありがとうございました