現代短歌社

佐藤佐太郎全歌集各句索引

香川哲三

佐藤佐太郎全歌集各句索引

佐藤佐太郎全歌集(現代短歌社文庫)収載の6,524首の全句32,622句を五十音順に配列。
「この索引を横に置いて歌を作る。すると、あなたの歌は確実にランクアップする。」大辻隆弘(「現代短歌」2016年7月号書評より)

  • 定価:1,667円(税別)
  • 判型:文庫判ソフトカバー
  • 頁数:376頁
  • ISBN:978-4-86534-140-9
  • 初版:2016年3月1日
  • 発行:現代短歌社

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BR書評 Book Review

なにも足さない言葉 大辻隆弘

 短歌は、短い歌、と書く。
 が、実際に歌を作る時、短いと感じる事はほとんどない。短歌はいつも長すぎる。
 今、部屋の窓を燕が横切っていった。心中に「夕つばめ飛ぶ羽根をおさめて」という下句が浮かぶ。本来なら、もうこの14音だけでいい。
 が、31音にしなければならない。上句「曇りとなれる空の下」としてみよう。が、まだ5音足りない…。ほとんどの場合、作歌はこのように進む。もう充分なのに、あと○音足さねばならない。それに悩む。そういうとき、一番ダメなのは説明や想像を入れてしまうことだ。
 燕は餌を子どもに運んでやっているのだとか、燕がナイフのようだとか、私たちは五音を埋めるために余計なものを足してしまう。それで歌をダメにする。
 必要なのは、何も言わないクッション材料のような言葉だ。意味のない、でも、調べのいい、そんな言葉。歌の名手はそういう「何も足さない言葉」を数多く知っている。
 佐太郎がいい例である。彼の歌は「何も足さない言葉」の宝庫である。
 試しに、この索引から「何も足さない言葉」を探してみよう。そして彼がその言葉を何度使ったか数えてみる。すると次のような結果が現われる。
  あらかじめ12首、おしなべて11首。
  おほよそに23首、あるときは34首。
  さながらに20首、さまざまに16首。
  たちまちに32首、ひとしきり23首。
 さらにセットとなっている『佐藤佐太郎全歌集』を開いて例歌をたしかめる。

  さながらに霜あれて軽き庭のつち寒(かん)の日々(ひび)晴れて乾きに乾く 『冬木』
  冬の日にさながらに黄に照らされて静かになりぬ擬宝珠(ぎぼうしゆ)の葉は 『地表』
  風は夜を待たずといへばさながらに庭を覆ひて雪やみにけり 『開冬』

 各句索引なので、初句だけでなく、第二句や第三句も検索できるのがいい。
 なるほど「さながらに」はこういう風に使うのか。ひとつこれを使ってやろう。
  さながらに曇りとなれる空の下ゆふつばめ飛ぶ羽根をおさめて
 お、何となく、私の歌も、歌らしくなったではないか……。
 この索引をそんな風に「何も足さない言葉辞典」として活用してみるといい。実例は豊富だ。しかも、それはすべて、あの佐太郎の歌なのだ。
 この索引を横に置いて歌を作る。すると、あなたの歌は確実にランクアップする。


(現代短歌2016年7月号掲載)

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