短歌は、短い歌、と書く。
が、実際に歌を作る時、短いと感じる事はほとんどない。短歌はいつも長すぎる。
今、部屋の窓を燕が横切っていった。心中に「夕つばめ飛ぶ羽根をおさめて」という下句が浮かぶ。本来なら、もうこの14音だけでいい。
が、31音にしなければならない。上句「曇りとなれる空の下」としてみよう。が、まだ5音足りない…。ほとんどの場合、作歌はこのように進む。もう充分なのに、あと○音足さねばならない。それに悩む。そういうとき、一番ダメなのは説明や想像を入れてしまうことだ。
燕は餌を子どもに運んでやっているのだとか、燕がナイフのようだとか、私たちは五音を埋めるために余計なものを足してしまう。それで歌をダメにする。
必要なのは、何も言わないクッション材料のような言葉だ。意味のない、でも、調べのいい、そんな言葉。歌の名手はそういう「何も足さない言葉」を数多く知っている。
佐太郎がいい例である。彼の歌は「何も足さない言葉」の宝庫である。
試しに、この索引から「何も足さない言葉」を探してみよう。そして彼がその言葉を何度使ったか数えてみる。すると次のような結果が現われる。
あらかじめ12首、おしなべて11首。
おほよそに23首、あるときは34首。
さながらに20首、さまざまに16首。
たちまちに32首、ひとしきり23首。
さらにセットとなっている『佐藤佐太郎全歌集』を開いて例歌をたしかめる。
さながらに霜あれて軽き庭のつち寒(かん)の日々(ひび)晴れて乾きに乾く 『冬木』
冬の日にさながらに黄に照らされて静かになりぬ擬宝珠(ぎぼうしゆ)の葉は 『地表』
風は夜を待たずといへばさながらに庭を覆ひて雪やみにけり 『開冬』
各句索引なので、初句だけでなく、第二句や第三句も検索できるのがいい。
なるほど「さながらに」はこういう風に使うのか。ひとつこれを使ってやろう。
さながらに曇りとなれる空の下ゆふつばめ飛ぶ羽根をおさめて
お、何となく、私の歌も、歌らしくなったではないか……。
この索引をそんな風に「何も足さない言葉辞典」として活用してみるといい。実例は豊富だ。しかも、それはすべて、あの佐太郎の歌なのだ。
この索引を横に置いて歌を作る。すると、あなたの歌は確実にランクアップする。
(現代短歌2016年7月号掲載)