現代短歌社

抒情の構造 ―喪われた〈故郷〉の位相

内藤明

徳不孤

gift10叢書第55篇

近代短歌は、万葉集をはじめとする歌の古層から、喪われた〈故郷〉を幻視する術を継承した。だが、〈故郷〉があったことさえ忘却された今日、始原への憧憬が、鉄幹、晶子、子規、左千夫、茂吉、白秋、空穂、御風、牧水、また武川忠一、上田三四二、玉城徹、山崎方代らにおける〈故郷〉の位相を読み解くことへと著者を向かわせた。『万葉集の古代と近代』に続く労作。

世界の秩序が音を立てて崩壊していく様を、われわれは目の当たりにしている。(略)あらゆる境界が失われ、内部も外部も混沌とした現在、人間と自然の一体といった認識は、神話であるとともに現実でもある。壊れ浮遊しつつ、自然に包摂されていく主体から発せられる、現代の絶望と祈りが一体となった歌を、私は夢想するのである。[本書より]

本書の内容

序 絶望と祈り

Ⅰ 万葉集とうたの生成
第1節 祈りと再生―『万葉集』天智天皇挽歌群を素材として
第2節 抒情の構造―始原への憧憬
第3節 季節の叙景―人麻呂歌集宇治河作歌二首をめぐって
第4節 漂泊・叙景・抒情―高市黒人と山部赤人
第5節 表現としての恋―坂上郎女
第6節 老いと人生―旅人と憶良
第7節 規範性からの逸脱―東歌をめぐって
第8節 『万葉集』に鳴く鳥
第9節 根源へむかうもの―五つの元素と歌

Ⅱ 近代短歌の成立
第10節 〈近代化〉と〈短歌〉
第11節 〈われ〉の生成・主体のゆくえ
第12節 和歌・短歌の音楽性
第13節 与謝野鉄幹覚書
第14節 与謝野晶子の春
第15節 晶子の熟成―『舞姫』と『夢之華』
第16節 晶子晩年の一首
第17節 正岡子規―継承と創造
第18節 伊藤左千夫―「おりたちて」の意味するもの
第19節 斎藤茂吉『赤光』と『万葉集』―原郷の彼方へ
第20節 茂吉の戦中歌集
第21節 北原白秋『雲母集』と『梁塵秘抄』―「赤」への傾倒
第22節 窪田空穂―〈実感〉への信頼
第23節 空穂と『万葉集』
第24節 相馬御風―飛翔と回帰 第25節 若山牧水の〈自然〉

Ⅲ 武川忠一と戦後の時間
第26節 歴史と時間―古代の歌などをめぐって
第27節 現実と源泉と―歌論家・批評家としての武川忠一
第28節 風土の生成―武川忠一『氷湖』をめぐって
第29節 「ひかり」への憧憬―上田三四二小論
第30節 表現主体の影―玉城徹『樛木』寸感
第31節 重層化する〈私〉 ―「方代」と「われ」
第32節 記憶と詩―山崎方代『迦葉』

終章
第33節 故郷のありど
第34節 喪失と郷愁

  • 定価:4,180円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:434頁
  • ISBN:978-4-86534-477-6
  • 初版:2024年3月31日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院

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