現代短歌社

実録・現代短歌史 現代短歌を評論する会

外塚 喬

実録・現代短歌史 現代短歌を評論する会

片山貞美の差し出した一通の案内状から、その会は始まった。年五回開かれた会合は歌壇ジャーナリズムに一切知らされることがなく、会の発行する「評論通信」もごく限られた者のみに送られた。批評の限りを尽くした歌人たちの肉声をとどめる貴重な記録。

当時の短歌界で華やかに活躍していた歌人に焦点が当てられているわけではない。むしろ、総合誌の巻頭を飾っていたような人の作品を、厳しい目で見ていくことが会としての目的の一つでもあった。(略)誰かが記録として纏めておかなかったら、十年に及ぶ活動が水泡に帰すことは間違いない。事務局を担当した立場上、この仕事は私がしなければという思いが、連載の途中からいっそう強くなった。(「あとがき」より)

  • 定価:3,600円(税別)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:306頁
  • ISBN:978-4-86534-248-2
  • 初版:2019年3月16日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院

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BR書評 Book Review

現在を問う多彩な論点 清水亞彦

 本書は一九八二年から九〇年までの「現代短歌を評論する会」、その活動記録の精粋である。
 発足は一九八〇年、片山貞美の呼びかけに応じた三十名程でスタート。ジャーナリズムとは一線を画しつつ、短歌の現在を真摯に討議し未来への活路を探る――そうした理念の下、先ずは十二回が開催され(本書では「はじめに」に略述)、次いで規約と組織を整えた上で三十七回、継続した。
 ライトヴァースへの評価。フィクションを巡る対論。総合誌に掲載された各年度「秀歌」の精細な検討など、現在にも繋がる多彩な論点が、ここには鏤められている。
 おそらくは読み手ごとに興味の対象が異なりそうだが、例えば私は次のような言説を面白く思った。▽推敲はしない。推敲する位なら作品は捨ててしまう(髙瀬一誌「評論通信」1号)▽小暮政次氏は、短歌におけるメティエの熱心な研究家である(玉城徹「同」13号)▽しかし今は、空無として長歌を意識する者のみが現代短歌の来たるべき様式を実現する、と確信している(市原克敏「同」25号)。
 また、『鴇色の足』(奥村晃作)、『日々の思い出』(小池光)といった歌集への同時代的論評。文法にウルサイ片山・玉城両氏に「わが誤用」のテーマで発表を求めた企画や、回を跨いで行われた「感情移入」の議論等、読みどころは実に多い。
 本書は、組織の盛衰を「ドキュメンタリー」として描きながら、そこで語られた「言説のエッセンス」をも拾おうとするもの。割愛された資料の続きを読みたいと感じる場面もあるが、「その先」は読者個々に委ねられていると言うべきだろう。該当年次の総合誌や、各発言者の論作を参照・併読することで、一時代の空気が活きいきと甦る。

(現代短歌新聞2019年5月号掲載)

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