現代短歌社

縄文の歌人

吉田直久

縄文の歌人

gift10叢書第45篇

華々しく変貌して止むことのない現代短歌の行く末を、「国民文学」の新リーダー吉田直久が、縄文回帰の知の眼光でしっかりと見据えて詠った待望の第一歌集である。
御供平佶

  • 人そして音も行き交ふ渋谷駅立ち尽くす吾もスクランブルの中
  • 春の小川とかつて呼びたる足元の奈落を走る川よ応へよ
  • 隣室の鈍き笑ひのしばしありてドア閉まる音哀しみを持つ
  • 土偶かなし文字持たぬ世の縄文の歌人の心ふとも思へば
  • 微睡みに夏の記憶の浮かび来て時間の海に船を出す夜
  • 定価:2,970円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:178頁
  • ISBN:978-4-86534-395-3
  • 初版:2022年7月27日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第45篇)

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BR書評 Book Review

都市生活者の歌 藤原龍一郎

 遥かなる古代を思わせる表題とは正反対に、この歌集の作品の特徴は、現代の都市詠である。
・誰もゐぬスクランブルの真ん中に烏と見まみゆ 渋谷午前五時
・倦怠の息吐つく人と吾を乗せエレベーターは鈍く稼動す
・地下鉄の扉の開きこの街のにほひ纏ひて人の入り来る
 夜明けの東京の真ん中に烏たちが活動していることは、知る人ぞ知る事実であるが、私もまた仕事の徹夜明けの都心の街路で、しばしば烏群と遭遇した。
 エレベーターの場面も経験したことがある気がする。偶たまたま々小さな空間に乗り合せた人の倦怠の息。それはまた私自身の倦怠でもある。
 都市的輸送機関の典型である地下鉄、駅のある街の臭いを纏って乗って来る客たち。この微妙な差異の感知はきわめて同時代的であり都市的だ。
・ラジオ点け懈け怠たいの中に微睡むに夜の遠くに噺家の声
・箪笥よりゲバラのTシャツ取りいだすカストロの訃の流るる夜は
 このような作品には世代的に共感をおぼえる。
 あとがきによると、著者はテレビの番組制作現場に勤務していると言う。
・午前三時編集続きしばらくを渇く眼を懈怠【けたい】の覆ふ
 職を素材にした歌がもう少し読みたいと読者としての私は思う。
・棘ひとつ抜かれし思ひ眼閉ぢ被爆二世の吾の自問よ
 二〇一六年五月のオバマ大統領広島訪問に対しての一首。著者の内奥を暗示する貴重な歌だ。こういう内面に関わる作品ももう少しあっても良かったのではないか。
・土偶かなし文字持たぬ世の縄文の歌人の心ふとも思へば  
 巻尾に置かれた一首。縄文への希求の本格的な展開は次の歌集になりそうだ。

(現代短歌新聞2022年11月号掲載)

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