現代短歌社

ノベル

北野ルル

ノベル

「七曜」「未来」に所属し、柏原千惠子、岡井隆に師事した著者の第三歌集。2001年以降の作を収める。古典や小説に親しむことで養われた想像力が巧まざるユーモアとなって徳島で暮らす日々を照らし出す。

  • ときのまの至福であるよ本持ちてだれもゐないときの長椅子
  • あと少し牛乳を加へてみむとするとをの少女の批評に従ひ
  • やがて長篇小説ノベルを読むことにさへ遠ざかるはかなき眼力体力がくる
  • 定価:3,080円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:210頁
  • ISBN:978-4-86534-372-4
  • 初版:2021年9月10日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院

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BR書評 Book Review

孤独の意味 今井恵子

・刈りあとの田のまん中のくちなはの孤独こはくて見ぬやうにゆく
 歌集の中ほどに右の一首がある。「くちなは」そのものではなく、白日に身を晒す「孤独」が怖いという。作者は否応なく、そこに「孤独」を見てしまう。そして自己の投影だからだろう「見ぬやうに」する。さらに「見ぬやうに」する自己を隠さない。『ノベル』は、このように世界と向き合っっている一冊である。いったんそこへ踏み込めばずぶずぶと溺れてしまいかねない世界の怖さを、凛とした文体でつなぎとめている。
・知らない人がこんなにもゐるその意味がわかつたやうに 旅人となり
 未知の土地に「知らない人」がいるのは当たり前だが、作者は新鮮な驚きをもってそれを発見する。「人」ではなく「意味」を発見するのである。現象に出会う度に、心の奥深いところで他者の意味、世界の意味を受け止めて自己更新する。だから、『ノベル』の作品は一つ所でとどまらず、絶えず生動している。
・動く枝も動かぬ枝もいつぽんの木がもちながら風のなかなる
・山の鳥川の鳥きて春は来ぬ花は咲きぬとたかく往き交ふ
 作者にとって外界との交感は切実だ。背後に、生きてある世界への問いがある。右は、読者を心地よく景色の中にいざなう美しい作品だ。
・夜は灯りだけの風景あかりとは人が地上にゐるそのあかし
・沈むとも浮かむともなく川のなか白いプラスチックの椅子ゆるく舞ふ
 集中には「歌のなかのわれとは池にしか棲めず生きてあえかなあぶくにすぎず」という歌もある。「灯り」「椅子」は孤独だが、人間がまぎれもなく存在している。外界との深い交感がある。

(現代短歌新聞2021年11月号掲載)

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