現代短歌社

にず

田宮智美

にず

2刷

gift10叢書第29篇

私は田宮さんにお会いしたことはない。でも、遠くで戦っているあなたを、ずっと知っていたような気がする。
北山あさひ(「栞」より)

  • 電柱の根元にタンポポ咲いていて 生命保険審査に落ちる
  • こんなにも美味しいわたしの唐揚げをわたし一人が食べている夜
  • しあわせな歌が詠みたい誰からも全然ほめられなくていいから
  • 定価:2,200円(税込)
  • 判型:四六判ソフトカバー
  • 頁数:176ページ
  • ISBN: 978-4-86534-330-4
  • 初版:2020年7月15日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第29篇)

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BR書評 Book Review

心に最上川が流れる 斉藤梢

 歌は肉声のようだ。二〇〇四年から二〇一九年までの四〇二首を読み終えて思った。
・自己紹介の十分後には震災のよもやま話に移る合コン
・一人なり。テレビの中の被災者はみんな誰かと支え合ってて
・忘れるという復興もありましょう わたしは忘れ生きてゆきます
 東日本大震災の時からの白い壁紙のひび割れと心の皹。他人には見えない心の〈被災〉を詠み、「絆」とか「忘れない」とかの言葉があふれる日々に「一人なり。」と断言する。悲苦告白ではない方法で「わたしは」を表明する作品が並ぶ。
・文末にハートの絵文字をつけてみて消して「。」って打って送った
・職安の帰りに五円にぎりしめ寄った神社の桜のつぼみ
・薄い壁越しに花火の音を聴き裸でそうめん茹でる 一人だ
 「あとがき」に「生きてきたとおりに、歌はできてゆきます」とあるが、この「とおりに」が案外難しい。自分を見定めているような「打って」「五円にぎりしめ」「裸で」の表現。行為の詠み込みが心情を真に伝える。
・ゆるし方ばかり上手になってゆく心に最上川が流れる
・虹、虹と幾たび言えど通じぬを「にず」でようやく伝わる、祖母に
 仙台で生活する作者にとって故郷の山形は背骨。「にず」という言葉は声を得て伝わる。「にじ」ではなく「にず」だという拘りが、〈生〉を支える。そして、命の水として流れるのは「最上川」だ。
・まっすぐに伸ばしていたい前髪が初夏の額の上で割れたり
 三十歳で被災した作者が、女であることを意識しつつ、人を思い、働き、米五合を炊いて今を生きている。痛々しくも逞しい「割れたり」である。

(現代短歌新聞2020年9月号掲載)

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