現代短歌社

秋の一日

沢口芙美

秋の一日

gift10叢書第22篇

不穏な時代をまっすぐに見つめる、明るい少女のまなざしをもち続ける著者。日々のつぶやきのような社会詠の円熟を示す第六歌集。

  • 宣戦布告の案文は十一月末に成るつくづくと読むその全文を
  • 益虫と害虫のあひだにただの虫をりて最も数多しとぞ
  • 「もういい」と呟き逝きしダイアナ妃 まだ死ねざるは左右【さう】見て渡る
  • 定価:2,970円(税込)
  • 判型:四六判ハードカバー
  • 頁数:198頁
  • ISBN:978-4-86534-268-0
  • 初版:2019年9月26日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第22篇)

購入はこちら ご注文はメールまたはお電話でも承ります。
info@gendaitankasha.com


※ご注文いただく時点で品切の場合もありますので、ご了承ください。

BR書評 Book Review

眼差しの厚み 栗木京子

 第六歌集。七十代前半の四二五首を収める。
・カタクリの大ぶりの花群れて咲く去年津波を被りし斜面
 東日本大震災の翌年に宮古を訪れた折の歌。「大ぶりの花」と丁寧にカタクリを表したところに被災地への思いが滲む。
・遠ひかる海境【うなさか】見やり太古より浜に寄りこしもの思ひたり
・潮の香のしるき稲佐の砂浜に流木、死ぬ河豚けふは寄るなり
 海を介して歳月や生死を遠望する眼差しは、出雲の稲佐の浜に立った際の歌からもしんしんと伝わってくる。浜に寄るいのちのなつかしさと切なさ。「流木、死ぬ河豚」というモノの選択がじつにこまやかである。
 こうした印象的な海の歌がある一方で、
・ひと方の空明るむを希望とし霧のなか登りぬ円山までは
・原子力の火を使ふ世にヤクの糞干して燃料とする人ら生く
・腰巻にこもる願ひの切実は赤、白あざやぐ色に滲めり
 山を詠んだこれらの歌にもリアルな情感が込められている。一首目は西穂高登山、二首目はヒマラヤの村、三首目は修那羅峠が歌の背景になっている。ひと方だけ明るむ空、燃料とするべく干されるヤクの糞、安産や婦人病平癒を願う神社の腰巻の赤や白。
 一首の中の点景が人間の営みのかけがえのなさを物語っており、構図のすっきりした歌でありながら独特の厚みを醸し出している。
 歌集制作の時期、作者には幾人かの大切な人との別れがあった。西村尚氏と実兄を悼む歌がとりわけ心に沁みた。
・雲ひとつなき瑠璃紺のけふの空いま一度会ひたし西村尚に
・姉は句をわれは挽歌を詠みけるがむなしきものよ兄甦らねば

(現代短歌新聞2019年12月号掲載)

続きを読む

他の書評をみる

TOPページに戻る

トップに戻る