現代短歌社

重吉

江田浩司

重吉

gift10叢書第16篇

もの心がついてから今まで、重吉の詩はわたしのかたわらにいつもあった。重吉の詩になんど慰められたことか。生きてゆく勇気を与えられたことか。わたしの弱さが重吉の詩によって、弱さのままわたしを救うこともあった。わたしは感謝してもしきれない詩恩を重吉からうけている。(「あとがき」より)

  • かなしみを糧にいきたる人ありてちひさな種をはるにはまくよ
  • くだものさへ殺さず生きてゆきたいとあかいあしたにゆつくりあゆむ
  • ほんたうの詩をつくりたしうつくしい瞳となりて沼にかがよふ
  • 定価:2,640円(税込)
  • 判型:四六判変型フランス装
  • 頁数:148頁
  • ISBN:978-4-86534-258-1
  • 初版:2019年6月15日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第16篇)

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BR書評 Book Review

永劫への言の葉 三枝浩樹

 本書は八木重吉への類稀なオマージュ、詩と短歌によって紡がれた讃嘆の書。評論や評伝が解析してゆくやり方とは違って、身体感覚で差し出された体温の通った重吉への共感の声である。

 にんげんのあかるさが
 しんじられる
 そのあかるさは
 魂のあかるさであり
 あなたの詩である

 このような詩を詞書として歌が詠まれている。
・むねをうつとほなみの音うちふるへわたしはねむる空のちかくに
・ぢゆうきちの詩にすむ雨はあたたかくやさしくわが名を水にしるさむ
 人間の明るさが信じられる重吉の詩の世界。そこには魂の明るさがあると、静かな驚きを記した詩と響き合う歌。「むねをうつとほなみの音うちふるへ」と深い感応に導かれて「わたしはねむる空のちかくに」と居場所を探りえた思いを述べる。空とは魂のふるさとでもあろうか。「ぢゆうきちの詩にすむ雨はあたたかくやさしく」、かかる感応から「わが名を水にしるさむ」という希求へと到る。重吉の詩に詠まれた雨に洗われて、〈われ〉〈わが名〉の呪縛から解き放たれ、詩人の憧れたキーツに倣って、水にその名をしるす者とならんと請いねがう。無名、無私の広やかな世界への思いが重吉を介して響いてくる。
・地におちてひろがるひかりきりすとがかなしみを負ふおとづれならむ
・いいかたがたばかりであるとみづや草たたへたまひし人のてのひら
・にんげんにあるものだけが悪なればくるしむ人はうつくしくなる
 江田氏はこうして重吉の詩の世界に迫りながら自身の深奥、精神世界に降りて行く。自身の深奥とは世界へ向かうための通路なのだ。そうこれらの歌が語っている。

(現代短歌新聞2019年8月号掲載)

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