現代短歌社

ピクニック

宇都宮敦

ピクニック

gift10叢書第15篇

2000年に枡野浩一に出会い、2005年第四回歌葉新人賞次席となって注目された著者。ポップな言葉に擬装された無垢な感情表出は若い世代を中心に圧倒的な支持を得てきた。遅れてきた第一歌集が「少年ジャンプ」サイズで堂々刊行。

  • 君のかばんはいつでも無意味にちいさすぎ たまにでかすぎ どきどきさせる
  • ネコかわいい かわいすぎて町中の犬にテニスボールを配りたくなる
  • だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし
  • 定価:2,200円(税込)
  • 判型:B5判ソフトカバー
  • 頁数:248頁
  • ISBN:978-4-86534-250-5
  • 初版:2018年11月27日
  • 発行:現代短歌社
  • 発売:三本木書院(gift10叢書第15篇)

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BR書評 Book Review

うねうねと流れる 大松達知

 歌の評価軸は人によって大きく違う。しかし、言葉が小さな見得を切るような姿にツボを求める人は多いだろう。だからこそ、老若男女、時代も素材も違う作品を同じ場で語り合えるのだ。
 しかし、この歌集は言葉のキレや発想の飛躍など、従来の短歌の美質を追求しない。むしろその逆を目指す。
 気だるい時代の感覚をそのまま緩く写すようだ。故意にずらされた文脈に新しさを見つけようとする果敢な挑戦なのだろう。
 もはや破調とも呼べないほどの独特の無碍なリズム感と、とらえどころのない視線。それを従来型の読みの基準に当て嵌めていいのか迷いはある。
・振り向いたけれども猫はいなかったけれども君がみたならいいや
 巻頭二首目。「けれども」は文章語。それを二つ重ねて、最低限の骨格を保ちながらうねうねと流れる。そこから急に脱力するような内面の声を聞かせる。
 「見た」でなく「みた」。他者と溶け合うような感覚の提示も歌集の特長である。個や我がかなり薄まっていて、その場に等価値として淡く存在しているのだ。
・日焼け止めのにおいをかぐと眠くなる 君の手首をつよくにぎった
・いつまでもおぼえていよう 君にゆで玉子の殻をむいてもらった
 この世から脱落しそうになる恐怖と救済。手でなく手首。些細な一瞬の細部を印象深く描き、自分の存在を認識する。短歌にはその強度がある程度は必要なのだと思う。
・君の名を呼ぶよろこびにふるえるよ 水がほどける春のさなかで
 掛け値なくいい歌。生きている自分。水の声が聞こえる。変化球の多い歌の中で、やはり短歌ってコレだな、と思う。それは従来型なのかなあ。

(現代短歌新聞2019年2月号掲載)

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